宇治田農場は茨城県南部は石岡市、筑波山を望む小高い山の上にあります。宇治田農場では妻の大原さんが養鶏で卵、夫の宇治田さんが畑で多品種少量で野菜を生産しています。鶏は抗生物質不使用の平飼いで畑の野菜などを食べて育ち、畑へ鶏糞を肥料として戻すという循環型の有機農業を行っており、おふたりは養鶏歴37年の大ベテランです。
ふかふかの畑 野菜は44種類ほど栽培されており、見学当日は人参やキャベツが元気に育っていました。前日まで雨続きでしたが、畑はぬかるむことなくふかふか。「心土という固い土の層がなく柔らかで水はけがよい証拠です」と宇治田さん。
心土は農薬や化学肥料で畑の微生物の働きが弱まるとできやすく、心土があると植物は根を張ることができず、大雨が降ると表層が流れてしまいます。そのため通常は機械で掘り起こし砕くのだそうです。
宇治田農場では殺虫剤や除草剤、化学肥料は使いません。虫よけにネット状のカバーを用い、除草は鋤のような道具で雑草を掘り起こし肥料は微生物により発酵しサラサラの土のように変化した鶏糞を使います。写真(左上)のように長いネットを設置したり外して除草を行ったりと全て手作業で行い、薬剤や機械に頼らない栽培は大変な労力です!この畑は鶏糞を使用して作り始めて6年目だそうですが「2年前からようやく良い変化があって」と宇治田さん。良い土作りには、日々のご苦労に重ねて、数年単位での根気強さが必要なのだと驚きました。
風が通り土の匂いがする鶏舎 一般的に産卵鶏は、窓がなく照明と空調で管理された鶏舎に1羽ごとひな壇状の小さなケージで飼育され、給餌も卵の回収もベルトコンベアで全自動。早く卵を産ませるために成長を促進する飼料を与え、衛生状態が悪いと病気になりやすくワクチンの接種や抗生物質などの薬品が欠かせません。そういった鶏はお日様にも風にも当たらずその一生を終えることになります。宇治田農場では現在、卵を産む鶏が550羽おり、鶏舎は12部屋に分かれていて、 1つの鶏舎に雌が70~80羽と雄が1羽います。写真は横から見た鶏舎です。天井高は2.5mで解放感があります。壁も金網張りなので風通しがよく天井には天窓があり、普段は開け、雨の日は閉めます。日当たりがよく日光浴や砂浴びができ、冬の寒い日には北側をビニールシートで覆い北風から守り、真夏は適度にある日陰で休むこともできます。鶏たちは高い所だと安心して眠ることができる習性があるため、大きな止まり木を設けてあるなど、鶏が暮らしやすい環境を整えています。産卵箱は小屋になっており一段高い所にあります。中はもみ殻敷きで安心して産卵ができます。一番驚いたのは、この鶏舎は糞や動物臭さがないこと。普通、鶏糞は腐敗し悪臭を発しますが、こちらの床には木のチップが敷いてあり、落ちた鶏糞を鶏が足で搔きまわし、自然にいる微生物が鶏糞を発酵、分解しサラサラになります。また、食べている飼料や薬品の接種の有無も糞の質に関わってきます。牧草や野菜をたくさん食べているせいか、宇治田農場の鶏舎は土の匂いで床はふんわりとしていました。
▲もみ殻を敷いた産卵箱で 産み立て卵を発見♪
鶏たちのごはんは 鶏は日没で眠るため、餌と水やりは日没2時間前、夏場は16時冬は14時に1日1回行います。飼料は一般的には輸入トウモロコシが使用されますが、遺伝子組み換え問題があるため宇治田農場では1996年から中止しています。トウモロコシは黄身の色を濃くし味にコクがでるため、中止後は色は薄く味はクセのないすっきりとしたものになりましたが、それは自然な事であり、「危険性のあるものは鶏に与えない」というおふたりの志が伝わってきました。かわりに地元石岡産の米ぬかや小麦を使用し、ほかに魚粉ミネラル類、塩、カキ殻を鶏の成長に合わせて数パーセント単位で配合調整をしています。「鶏が若いうちに高たんぱくの飼料を与え早くから卵を産ませると体への負担が大きく短命になる。まずは体作りが基本」との考えから、内臓を鍛え体を作り成長してから産卵を迎えるよう育てているそうです。また、一般的には産卵期までに十数回のワクチン接種をしますが、宇治田農場では、法定ワクチンのみ。飼料に抗生物質は使用していません。この飼料を1羽が年間30キロ消費し、500羽で15トン。倉庫にはそれぞれ大きな袋でたくさん備蓄してあり驚きました。
青草と野菜たっぷり こうした乾物の飼料に畑で採れた野菜や牧草など新鮮な青草を1:1の割合で加えます。どんな野菜が好きですか?と聞くと「なんでも好きですよ。水菜とか小松菜なんかはすごく喜びますね」と宇治田さん。他にも人参の葉や、サツマイモなどを細かく刻み青々をした草の飼料が準備されていました。ちなみにこの日のサツマイモは前夜にポストにお届けしたものと同じものでした。
産卵は半年目から 見学日の翌週10月24日に新しく雛が180羽来るので、空いた鶏舎はこの秋に生まれた雛たちのため準備中でした。この雛が卵を産み始めるのは翌春3~4月頃。産み始めは卵が小さく成長と共に大きくなっていきます。一般には売られておらず貴重な卵で、3月に「産み始め卵」としてご紹介の予定です。大切に育てられた鶏たちの最初の卵、春にいただけるといいですね。
産んだその日に出荷 鮮度が気になる卵は、鶏舎すぐ近くの部屋で、産んだその日に検品、箱に詰め、出荷されます。一つ一つ汚れや割れがないか大原さんが確認し、箱に賞味期限(冷蔵で生食できる2週間先の日付)を印字します。1日数百個を手作業で行う、根気のいる作業です。 「卵も野菜も健康に育つからおいしいんですよ」という大原さん。宇治田農場の鶏たちと畑の野菜は愛情いっぱいに育てられ、副産物も無駄なく利用され環境に優しく安全性も高い。その陰にはお二人のご苦労が絶えずあることを感じました。