宇治田さんの農場は茨城県の霞ヶ浦に近い石岡駅から車で30分の山中にあります。今の農場は開いてまだ3年目ですが、宇治田さんご夫婦は養鶏業に携わって20年のベテランで、養鶏だけではなく、鶏糞の堆肥で畑を作り、とれた野菜などを鶏の餌にするという循環型の複合有機農業に取り組んでいます。研修生も受け入れ、近隣の養鶏家の相談にも乗っています。
鶏の習性に合う環境作りを
飼っている鶏はゴトウ種で、720羽前後、産み初めの鶏も入れるとおよそ1000羽います。生協に出している関係もあって産み始めて1年後には廃鶏にするのですが、宇治田さんは鶏の習性に合う環境作りを大切にしながら育てています。
鶏舎は開放鶏舎で、13.5坪の小屋が8つ、一列に並んでいます。どの小屋も南向きで、四方は金網張り、屋根には巻き上げ式の天窓が付いていて、日当たり、風通し共に良好です。各小屋におよそ100羽の雌と5羽の雄がいます。雄がいると群れ全体が落ち着くのです。? 中央にもう1つ他より小さな小屋がありますが、これは弱かったり卵を産まずにいじめられた鶏のための隔離部屋。雌7~8羽に雄1羽が入っていました。鶏舎はこの他に、210坪のビニールハウスの鶏舎もあり、そこでも200羽が飼われています。
また、新しいヒヨコを入れる時に稲わらを厚く敷きますが、それが糞と混ざり、成鶏になる頃にはサラサラの発酵堆肥床になり、鶏は足でかき回したり嘴でついばんだり砂浴びができるので心身の健康に役立っています。各小屋には止まり木、水箱、餌箱、産卵箱があり、見学をした日も、鶏達は自由に動き回っていました。人が小屋の中に入るのは朝夕の2回だけなので、仲間達と落ち着いて生活することができます。
無農薬有機栽培の青草と
国産主体の自家配合飼料で丈夫な鶏に
宇治田さんの養鶏の一番の特色は、青草をたくさん与えて育てること。孵化した翌日にやってきたヒヨコに、初めの3日間は玄米を、4日目からは手で細かく刻んでふりかけ状にした青草を与え、成長に従って大きさや量を変えながら青草に慣れさせます。青草は大きくなっても十二分に与えます。
これによって内蔵が鍛えられ、丈夫な鶏に育つのです。 そのため宇治田さんは10ヵ所に分かれている自家農場の畑でイネ科の牧草、イタリアンライグラス、ライ麦、44品目の野菜を無農薬有機栽培で育て、一年中青草を切らさないようにしています。
飼料としては、青草の他に、自家農場や近隣の仲間の有機野菜のクズ、また国産の小麦、大豆カス、米ぬか、かき殻、そして北米産の魚粉を混ぜた自家配合飼料を与えます。配合の割合は季節や生育に合わせて変えています。腸を鍛える意味でこれらの自家配合飼料は発酵させていません。また卵の黄身の色を濃くするためのものを特別に食べさせたりはせず、自然の色と自然の味です。遺伝子組み換えやポストハーベストの危険のある輸入のコーンや大豆カスは使っていません。
ワクチンはニューカッスルなどの法定ワクチンは接種しますが、抗生物質や成長ホルモンは一切不使用。ただ、「50~60日目の雛の中で万が一鶏回虫が発生した場合、 群れが全滅してしまうので駆除のために虫下しを与える必要がありますが、今までまだ一度も与えたことはない」とのこと。もし与えたとしても、「卵を出荷するのはそれから80日以降なので影響はありません」とおっしゃっていました。
国産小麦の確保と
青草を切らさないようにすることは大変
最後に「お仕事の中で一番大変なことは何ですか?」の質問に、慣行農法であっても国産小麦を農協に頼んで一年分確保することと、青草を一年中切らさずに育てることの二点を上げられました。私達は飼料の安全性を切望しますが、そのためには陰で様々なご苦労があることが分かりました。
伺ったときはちょうど午後の給餌の時間。宇治田さんが鶏舎の前に置いてある細断機で間引き人参を刻み始めると、各小屋から鶏達が鳴き始め、とても賑やかでした。羽の色つやも良く、どの鶏も見るからに元気そうでした。鶏舎や畑を見学後事務所でお話を伺っているうちに、鶏達はお腹がいっぱいになってお昼寝に入ったのでしょうか、鶏舎全体がシーンと静まりかえっていました。
安全でおいしい卵は健康な鶏から産み出されることを再確認した一日でした。